昼休み、いつも通り、クラスの違うと他愛もない話を続ける。
これこそ、女子の醍醐味でしょ!



「――あ、そうそう。、『愛してるよゲーム』って知ってる?」

「ううん。何それ?」

「数人で輪になって、隣の人に真剣に『愛してる』とか、愛の言葉を言うの。それで、照れたり笑ったりした方が負け、ってゲーム。」

「へぇー、知らないな〜。」

「テレビでやってたらしいんだけど、うちのクラスでちょっと流行ってて。」

「そうなんだー!」



その後、クラスの友達に聞いてみたら、何人か知っている子がいた。
じゃあ、私たちもやってみる?なんてことになって、2年の女子の間で広がっていった。

ネット社会で簡単に「氏ね」なんて言葉が使われるようになった昨今。
たとえ本気でなくとも、「愛してる」という言葉が溢れることは良いと思う。
・・・・・・というようなことをに話したら、「そこまで考えてんのはだけだと思うけど」って笑われた。

ともかく、私はこのゲームに好感を持っているタイプではある。
でも・・・・・・。



「最近、ちゃんらの間で、『愛してるよゲーム』っちゅうんが流行っとるらしいなー?」

「ええ、まあ。」

「ほなら、俺らもやってみよか。」

「・・・・・・・・・・・・。」



誰とやっても楽しいとまでは思ってない。



「・・・・・・ちゃん、とりあえず。その、ものごっつ嫌そうな顔、止めよか?」

「いや、だって、『俺ら』って・・・・・・テニス部のメンバーでやる、ってことですよね?」

「別に俺は、ちゃんと二人きり、でもええで?」

「それはもっと意味がわからないので、絶対にやりませんが。」

「冷たいなー。そやけど、最終的に俺とちゃんが残ったら、そうなるんやで?」

「だから、テニス部のメンバーでもやりませんって。そりゃ、一部の女子が喜ぶようなショットではあるでしょうけど・・・・・・あいにく、私にそういう趣味はありませんので。」

「そないなこと言うて、ホンマは、たとえ相手が男であれ、ちゃん以外の誰かに、日吉が愛を囁くとこを見たないだけちゃうん?」

「っ・・・・・・。」



そう、好きな人と、このゲームはやりたくない。
好きな人とやれば、絶対に自分が負けるから。それも小さいけれど、理由の一つではある。
忍足先輩の言う通り、他の人に言っているところも、見ていて気持ちがいいものではない。
でも、それ以上に。好きな人が――何よりあの真面目な日吉が、本気でもないのに、そんな言葉を発する、というところが嫌だ。やっぱり、好きな人の愛の言葉は、真剣なものであってほしい。・・・・・・いや、それが自分に言われると思ってるわけじゃないけどねっ!!



「でも、逆に考えたら、ちゃんに言うてくれる可能性もあるわけやしなー?」



テレビでは男女が交互に座ってやっていたらしいし、合コンなんかで使われるって話も聞いたことがある。だから、いつものように女友達だけでやるより、こうして男女混じった状態の方がある意味正しい使い方なのかもしれない。
そうだとしても、私は絶対にやりたくない。いや、私だけじゃない。



「・・・・・・そもそも。日吉が参加するとは思えませんけど?」

「任せとき!日吉のやる気を出させたるわ。」

「誰も頼んでないので、任せられなくていいです。と言うか、忍足先輩は、なんでそんなにやる気なんですか。」

「俺、こういうの、得意そうやし?」



・・・・・・そうでしょうね。忍足先輩は、心を閉ざせますもんね。



「日吉以外のレギュラーにも声かけるし、部活終わり、みんなが集まっとったら、ちゃんも参加してや〜。」



そう言って、忍足先輩は立ち去った。
・・・・・・私の返事を聞く気は無いんですか。
でも、大丈夫だろう。忍足先輩自身がハードルを上げてくれたもの。
日吉だけでも難しいだろうと言うのに、他のレギュラーの皆さんも納得させるなんて、無理にも程がある。特に宍戸先輩がこのゲームをやるとは思えない。

って思ってたのに・・・・・・。
部活終了後、部室に入ると。



「見てや、ちゃん!全員おるやろ?」



忍足先輩に、跡部先輩、向日先輩、ジロー先輩、まさかの滝先輩まで。そして、樺地と鳳に・・・・・・日吉と宍戸先輩。
全員ちゃんと揃ってる・・・・・・!!



「宍戸先輩、忍足先輩から何をやるか、ちゃんと聞かされました?」

「あ、ああ・・・・・・。やりたくはねえが、忍足がどうしても、ってうるさくてよ。断わるのも面倒になった。」



そうか・・・・・・。皆さん、何だかんだ言って、お優しいもんね・・・・・・。
忍足先輩がどうしてもと言えば、渋々ながらも少しぐらいなら付き合ってやる、という感じになるんだろうな・・・・・・。
それでも、日吉だけは断ってくれると思ってたのに。宍戸先輩みたいに、断るのも面倒になったんだろうか?



ちゃんは、そこの空いてる席な?」



忍足先輩にそう言われ、私も渋々宍戸先輩と日吉の間に座った。



「ちなみに、最後まで残っとった人は、この中の誰かに1つだけ、何でも命令することができまーす。」



何だか、とんでもないことをあっさりと言われた後、宍戸先輩からゲームがスタートし・・・・・・最終的に、私と日吉が残った。
皆さん、言われる側よりも言う側で照れてしまって、どんどん脱落していった。忍足先輩と滝先輩なんかは、「え?」と聞き返すことで順番を逆回転にさせる、応用技も使って頑張っていたけれど。結局、他の人同様、言う側で負けてしまった。
・・・・・・うん、自然な流れだったようにも見える。うん、見えるけれども。でも、この残り方は、あきらかに意図的でしょ!?
私と日吉だけが、終盤までほぼゲームに関わらず、最後になって日吉が私に言う、というこの流れ・・・・・・。



「じゃ、次は日吉の番やな。」

「ま、待ってください!このゲームは、あくまで忍足先輩がやりたくて、皆さんを誘ったんですよね?だったら、忍足先輩が脱落した今、もうゲームを続ける意味は無いんじゃないですか?」



きっと、忍足先輩が余計なことを企んでいるに違いない。しかも、残念なことに、おそらく日吉以外のメンバーは、その忍足先輩とグルだ。
でも、そう思い通りにはさせないっ!!



「そやけど、勝負は勝負やで。ちゃんが不戦敗、ってことでもええんか?」

「はい、私はそれで構いません。」

「でも、それじゃ、日吉の不戦勝、ってことでしょ?俺、ちゃんだったらEけど、日吉にはあんまり命令されたくないかなー。」

「でしたら、日吉は私にしか命令できない、ということにすれば、誰も文句は無いでしょう?」



日吉なら、変な命令はしないだろう。いっそ、命令すること自体を無くしてくれるかもしれない。
・・・・・・いや、それは無理か。どうせ、また先輩方に阻止されるだろうし。
だから、命令の方は甘んじておく。でも!絶対に、このゲームは終わらせる!!



「・・・・・・しゃーないな〜。そこまで言うなら、日吉の優勝、日吉はちゃんに何でも1つ命令できる、ってことにしとこか。」



忍足先輩の言葉に、他のメンバーも頷く。
・・・・・・よし!



「日吉もええな?」

「ええ、俺も構いませんが・・・・・・。は本当にいいのか?」

「うん、もちろん。日吉だって、こんなゲーム、やりたくないでしょ?」

「・・・・・・助かる。」

「いやいや、こちらこそ。」

「仲良う喋っとるとこ悪いけど。そろそろ命令、言ってもらおか?言うとくけど、命令は無し、なんておもんないヤツは無しやで。」



やっぱり・・・・・・。あとは日吉に懸ける!日吉なら大丈夫。信じてる!
そう思いながら、日吉を見つめる。
そして、日吉の出した命令は・・・・・・。



「・・・・・・・・・・・・この後、部室の点検をやってくれ。」

「点検?」

「ああ・・・・・・。忘れ物が無いか、パソコンの消し忘れはないか、などを確認してくれ。」

「わかった!」



私は笑顔で、そう返事した。一方、忍足先輩は、少しがっかりした表情をしている。
そう上手くはいきませんよ、忍足先輩。それから・・・・・・日吉、ありがとう!



「・・・・・・まあ、ええわ。みんな、俺に付き合うてくれて、おーきにな。」



こうして無事に終了し、皆さんは着替えをして、帰って行った。
そして、私は誰もいない部室へ再び入る。

忘れ物があっても、セキュリティ万全な氷帝、本人が困るだけで大きな問題にはならない。
パソコンの消し忘れも、学校が管理しているらしいから、私が見る必要はない。
・・・・・・でも、せっかくだしね。やって無駄なことじゃないし。

一通りチェックして、何も無いことを確認し、部室を出た。



「遅かったな。」

「っ!?」



てっきり全員帰ったのだと思っていた。でも、扉の横に、壁にもたれた日吉がいた。



「あんなの、その場しのぎで言っただけなのに・・・・・・本当にやったのか?」

「えっと・・・・・・一応。」

「・・・・・・真面目だな。」



そう言って日吉は苦笑するけれど。



「待っててくれたの?」

「お前を一人で帰らせるわけにはいかない。・・・・・・それに、半分は俺の責任だからな。」



そう言う日吉も、真面目だと思うよ?



「ありがとう。・・・・・・でも、悪いのは全部!忍足先輩だから。」

「全く・・・・・・。あの人も余計なことをしてくれる・・・・・・。」

「本当にね・・・・・・。何か、忍足先輩って、こういうことばっかりしてるような・・・・・・。」

「それなのに、どうして今回、は参加しようと思ったんだ?」

「するつもりはなかったんだけど、皆さんが集まったら私も参加するように、って言われてたから仕方なく。」

「・・・・・・。」

「私としては、日吉とか宍戸先輩辺りが断わってくれると思ってたんだけど・・・・・・。日吉もどうしてやることにしたの?」

「その前に確認したいんだが・・・・・・お前は、元々参加するつもりは無かったのか?」

「うん。皆さんが集まったら私も参加するように、っていうのも、忍足先輩が勝手に決めたようなものだしね。だから、本当に仕方なく。」

「ちっ、謀られた・・・・・・。」

「え?どういうこと?」

「俺が声をかけられた時、既にも参加することが決まっているような口ぶりだった。」

「そうなの?じゃあ、日吉もみんながやるなら仕方なく、って感じ?」

「・・・・・・・・・・・・。」



・・・・・・あれ?どうしたんだろ?
さっきまで、お互い忍足先輩の愚痴を言い合って、話が弾んでいたのに。・・・・・・愚痴で弾む、ってのも変だけど。
でも、突然、日吉がだんまりになった。



「それとも、忍足先輩に何か余計なことでも言われた?」

「それもそうだが・・・・・・俺が悪かった。」

「へ?」

「俺がちゃんと断っていれば・・・・・・。」

「だから、日吉は悪くないって!」

「いや・・・・・・悪かった。謝らせてほしい。」

「・・・・・・何かあったの?」

「悪い、気にしないでくれ。」



無理です、気になります。
だけど、日吉はどうしても言いたくなさそうだ。
日吉の気分を悪くさせるのも嫌だし。と言うか、全部忍足先輩の所為なんだから!今度、先輩に聞いてみることにしよう。



「でもさ、悪いことばかりでもなかったよ?」

「そうなのか・・・・・・?」

「ほら、こうやって日吉と二人で帰れたし。いつもより静かでいいでしょ?」

「・・・・・・そうだな。」



そう言って、二人で笑いながら帰り道を歩く。
本当は「いつもより静かでいい」なんて理由は必要ないんだけど。今はまだ、これでいい。
でも、いつか、こうして二人で帰ることが当たり前になったらいいな。
だから、その前に。ゲームなんかじゃなくて、ちゃんと自分の気持ちを伝えて。日吉にも同じ言葉を返してもらえますように・・・・・・。





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「二人がいないのは寂しいけど、このメンバーで帰るのも、なかなか新鮮でいいね。」

「アイツらを二人きりにできたのはいいけどよー。こんなんで、何か進展があんのか、侑士?」

「まあ、ないやろうな〜。」

「お前・・・・・・!!アイツらを何とかしたい、っつーから、俺らは付き合ってやったんだぞ!?」

「まあまあ、宍戸さん。あの二人のためにはなったと思いますし、いいじゃないですか。」

「それに、アイツらにはアイツらのペースってもんがある。俺らは見守ってやりゃあいい。なあ、樺地?」

「ウス!」

「うんうん、二人が幸せになってくれればEよね!」

「あと、侑士。どうやって、日吉の奴をやる気にさせたんだ?アイツ、あんなのに乗るタイプじゃねーだろ?先輩の言うことを素直に聞くような奴でもねえし・・・・・・。」

「今回のルールを説明しただけや。」

「ルール?」

「優勝できたら、誰かに命令できる、ってヤツ。例えば、ちゃんにあんなことやこんなこと、あるいは、そーんなことも命令できるんやで、って言うただけや。」

「・・・・・・なるほど。忍足や他の誰かがそう言うことを阻止するために、日吉は参加せざるを得ないわけだ。やるねー、忍足。」

「もしくは、日吉自身がそんな命令をしたかった、っちゅう可能性も無くはないで?」

「それは無いでしょう。それこそ、日吉はそんなタイプじゃないでしょうし。」

「さあ、どうやろうな?何にせよ、俺らが卒業するまでには、二人の付き合うてる姿を見せてほしいもんや。」













 

珍しく、早く書けました!(笑)ネタを思い付いてから、1週間ぐらいで書けたんじゃないですかね!
・・・ん?1週間って遅いのか??いや、少なくとも、私にしたら早いです!(笑)
余裕で数か月、数年経ってることが多いので・・・(滝汗)。

今回のネタは、女子中学生の方が「『愛してるよゲーム』が流行っている」と書いているのをたまたま見つけまして。「夢小説に使えそうだなー」と思った後は、既述の通り、パパッと流れが出来て、スラスラーと書けました☆
そんなわけで、現代の女子中学生さんに感謝でございますっ!(笑)

('13/10/06)